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狼についてのある山師の話


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岩手県在住のマブリットキバさん ご当地ヒーローでもあり、東北の復興に全力で取り組んでおられます。二ホンオオカミについての伝承を辿っていた時、マブリットキバさんのTwitterと出会った。そこに書かれていたのは、山師の方が語る狼の不思議な話だった。

マブリットキバさんの承諾を得てその内容を、本文の通り掲載します。

『この話は岩手で言うと、旧川井村から住田町、五葉山のあたりの話だ。語ってくれたのは、85~94歳のお年寄りの方々。今はほとんどが亡くなったので貴重な話だ。

みんなは狼を知っているかい?日本ではもう絶滅してしまった二ホンオオカミの話だ。岩手の山にももちろん、いた。まずはその、二ホンオオカミにまつわる不思議な話を幾つかしよう。語り手はこれまた山師の年寄。岩手の山には昭和初期まで二ホンオオカミがいたというのだ。

山師の老人は俺に「狼をご存知でしょう?」と言うので「知っているとも、偉大な山の守り主だ」と言うと、山師の老人は「全くその通り。今は絶滅しましたが、貴方は私たちのような山師や猟師が簡単に撃ち殺したと思っているのでしょう。それは違います。」と神妙な顔つきで言う。

山師の老人は言う。「古来から山に入りたる者、山に生かされているものであれば、狼の重要性を知らぬ者はいない。それを撃つなどとは恐れ知らずなのです。」従って、流行の鉄砲撃ち(趣味のハンター)以外に狼を撃つ者はいなかった。と老人は言うのだ。

俺は言う。「しかし、人間が撃ち殺して絶滅したはずでは」それに山師が返す。「狼を撃って何になろうか。肉がとれるわけでなし、むしろ撃てば自らに徳はない。当時、鉄砲一発ぶつのにどのくらいの手間がかかるか。政府の出した賞金では狼を撃っても全然元が取れない。従って撃つ者はいなかった。」

俺は尋ねた。「誰も撃たなかったのに、狼がいなくなったと言うのは理屈に合わない。いったい岩手からなぜいなくなったのか。」山師の老人はすぐに返す。「いなくなったのです。彼ら狼は我等を捨てたのです。」そして老人は当時の話をゆっくりと話し始めた。

政府から狼を捕獲するようにとお達しがあったが、山の掟に逆らうので誰も撃とうとしなかった。むしろ山で見ても、見て見ぬ振りをしたそうだ。狼は人に手出しをする事はないので、元からいても害はない。たまに狼を撃ちたいという一般のハンターが来たが、ウソを言って追い返していたそうだ。

そうした時、山に狼が突然増えだした。見慣れぬ狼もいる。これはどうした事かと集落で集まってみんなで話をしたが答えは出なかった。そして、ある日にそれは起きたのだ。

山師の仲間が夜中に家に飛び込んで来た。聞けば山で大変な事が起きていると言うのだ。
山師たちは集落で集まって山に様子を見に行った。そこには驚くべき光景が広がっていたのだ。

山の谷間をうごめく大きな影、全て狼だ。その数は200を超えるほどいるだろうか。目に見える範囲でその数だ。山師たちは天変地異があるのではないかと話しながら狼の群れの動向を見守った。

山師たちが見守る中、突然狼たちは動き始めた。ゆっくりと大行進をしてみな、早池峰山、つまりは北へと方向を決め歩いて行くのだ。そうして明け方には全ての狼がいなくなった。


山師の老人は言う。「どうですか?狼たちは自ら去っていったのです。見慣れぬ狼たちは南からやって来て合流して来たのでしょう。そして北を目指して去っていったのです。そしてここからは誰も分からないのですよ。」

俺は言う。「なるほど。つまり狼が山を去っていった。だとしたら今はどこにいるのだろう。」老人は答える。「それは人の知らぬ場所でしょう。鬼でも辿り着けぬ、そういう処にいるのではないかと思います。しかし、山はそこから寂しくなったと集落の人は口々に語ったそうですな」

最後に山師の老人は山を見ながら言った「貴方は狼が人を恨んでいるとお思いか?」俺は答える。「恨むだろうな。」すると老人はカッカッカと笑い答えた。

「狼は、この世の動物は、人がそういう生き物だと知っていたのではないでしょうかな。人は奪い、駆逐する事で生きていく生き物だと。」

老人は続ける。「私たち人間の事を山の動物たちは知っている。だからこそ、人を知っているケモノたちは自ら争いを起こさず、人のみを残し去って行った。奥ゆかしく強いと思いませんか?」

俺は老人に言った。「哲学は苦手なんでうまいキノコの採れる場所を教えてくれないか」
一緒に行った相棒にすさまじい軽蔑の目で見られた。老人は最後まで笑って親切に見送ってくれた。』

この話は山と向き合い、そこに生きた人の実話である。このTwitterに出会う前、ある人のブログを読んでいた。その人は早池峰山の案内をしている。2009年に書かれたその人のブログ内容は、早池峰山で犬?(狼?)の遠吠えを聞いた。という内容だった。その人は勘違いかもしれないが。と書いておられたが、どうなのだろう?直にそれを体験した本人にしか分からない何かを感じ得たのだろうし、それはその人本人だけのものだ。

早池峰山を知り尽くし、狼の伝承を数多く探し出したその人に、狼が心を許したとしても不思議ではない様に思っている。


マブリットキバさん公式HP










by kokemusuniwa | 2018-04-13 15:37 | 民話 伝承

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